成長モルモン分泌不全症
「成長モルモン分泌不全症の診断と治療~脳神経外科の立場から~」という演題で鹿児島大学の藤尾先生のWeb講演会を聞くことができました。
成長ホルモン(growth hormone :GH)は、小児期に分泌が不足すると成長ホルモン分泌不全低身長症などの成長障害をもたらします。一方、分泌過剰であると巨人症や末端肥大症となることで知られていますが、代謝をコントロールする作用や精神的な健康を保つ作用があり、子供から大人まであらゆる年齢に必要なホルモンであることがわかっています。
成長ホルモンの分泌不全を成人期に発症する場合、間脳下垂体腫瘍(下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫瘍など)とその治療(手術・放射線治療も含む)、下垂体炎、頭部外傷やくも膜下出血、シーハン症候群(出産時の大量出血による下垂体機能低下症)が原因となり得るそうです。また、まれに原因不明で成長ホルモン分泌不全となることもあるようです。成人期に発症した成長ホルモン分泌不全症(Adult Growth Hormone Deficiency:AGHD)の場合、自覚症状として易疲労感、スタミナ低下、集中力の欠如、性欲低下、うつ状態など、さまざまな精神症状が生じるようになります。
身体所見として、皮膚の乾燥と菲薄化、体毛の柔軟化、ウエスト/ヒップ比の増加、骨量の低下、筋力の低下などの症状が出てきます。検査所見として体脂肪(特に内蔵脂肪)の増加、除脂肪体重の低下、骨塩量減少、筋肉量減少、脂質代謝異常、耐糖能異常、脂肪肝(単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪肝炎など)の増加などがあります。
診断としては、既往歴(小児期に成長ホルモン補充治療、頭蓋内器質性疾患症例、周産期の異常(逆子(さかご)や胎児仮死))や主症状、身体所、頭部MRIや検査所見に加え、成長ホルモン検査分泌刺激試験を実施し判断します。藤尾先生は、臨床経験からくも膜下出血後の方の1~3割が成長ホルモン分泌低下となることや脳腫瘍後のAGHDの診断や治療の流れ、治療の実際例を紹介して頂きました。
治療は、成長ホルモン(GH)補充療法として寝る前にGH製剤を皮下注射で投与します。副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンなど成長ホルモン以外のホルモン分泌が低下している場合には、まずそれらのホルモン補充を行うことが重要だそうです。GH補充療法により、LDLコレステロールの改善、肝機能改善、心機能改善が見られた、とのことです。GHには細胞増殖作用があることから脳腫瘍の再発や新生物の発生が懸念されていますが、現在のところGH補充療法による脳腫瘍再発率の増加や新生物発生の増加は認められていないそうです。
GH製剤は高価な薬で高額な治療です。治療が高額となった場合には、高額療養費制度の対象となったり、一定の基準を満たした患者さんでは指定難病医療費助成制度が適応となり得るので都道府県で確認をすることをお勧め致します。成長ホルモンをはじめ、種々のホルモンの分泌異常は自覚症状がはっきりとしない場合があります。体調不良や検査データの悪化などを「年齢のせい(加齢だから)」「自分が不摂生だから」と思い込まず、院長をはじめスタッフにご相談頂きたいと思います。
管理栄養士 米田